電子顕微鏡内の試料・絞り微細駆動装置の開発(2013年)

透過電子顕微鏡の解像度および高真空の向上等を目指し、試料と可動絞り等を鏡筒内に組み込んだ駆動装置によって移動できる機構を開発する。駆動装置は、磁場による電子顕微鏡の性能に影響を与えるないピエゾ素子アクチュエータを用い、鏡筒外からPC制御できるようにする。また、磁界レンズのポールピースおよび試料室の非常に狭い空間に収納できる超小型ユニットであることと共に高度な駆動精度、耐久性、安定性を実現する。

  • 〒431-3192 静岡県浜松市東区半田山1−20−1
    国立大学法人 浜松医科大学
    学長 中村 達
    担当者 小野寺雄一郎 (財活用推進本部・特任助教)
  • 秋本季勇
    株式会社 サンエンテック
    専務・研究担当
    Tel. 053-488-4243 Fax. 053-488-4246
  • 村中祥悟
    国立大学法人 浜松医科大学
    実験実習機器センター技術補助員

主たる加工機器と技術者の活動拠点

  • 株式会社 サンエンテック
    〒431-2103 浜松市北区新都田1丁目3-3-1
    浜松都田インキュベートセンター A-4

透過

図1.プロトタイプ駆動機構の走査電子顕微鏡薄膜透過像観察ホルダへの応用例 斜視図
図1.プロトタイプ駆動機構の走査電子顕微鏡薄膜透過像観察ホルダへの応用例 斜視図

走査電子顕微鏡の試料や絞りの切り替えと位置調整に応用できる圧電素子アクチュエータを用いた電子顕微鏡鏡筒内駆動ユニットを開発、制作する。駆動は鏡筒外からはパソコンで操作でき、鏡筒外からの機械的な操作機構を一掃する。駆動ユニットには超小型の圧電素子アクチュエー タをXとY方向に用い、サイズが厚さ4mm以下で作成する。特に一般的な透過電子顕微鏡の対物レンズのポールピースには試料と対物絞りの駆動ユニットが収まるように2段重ねで厚さ10mm程度以下とする。

図1.プロトタイプ駆動機構の走査電子顕微鏡薄膜透過像観察ホルダへの応用例 装着ホルダ
図1.プロトタイプ駆動機構の走査電子顕微鏡薄膜透過像観察ホルダへの応用例 装着ホルダ

製作する駆動ユニットは電子顕微鏡の駆動機構であるが故に高い駆動精度と位置保持機能が求められる。これらの条件を満たすために、チタン等の金属材料、メッキ等の表面処理、高度な加工精度を構築する。これらの高度な技術を必要とする部材加工は地場産業による極めて精密な金属加工技術、メッキ技術等をもってこれにあたる。また、従来の電子顕微鏡操作から逸脱しない自然なコントロールのできる機能もあわせて追求する。開発した駆動ユニットは、絞り駆動装置、試料駆動装置、鏡筒内微細解剖装置、物理的試験装置等に応用できるように、各種電子顕微鏡への着脱機構を製作し、容易に装着可能とする。本駆動装置は、ピエゾ素子を用いたアクチュエータをパルス電圧で駆動させて用いるので、磁場による電子顕微鏡の超高分解能画像に障害を与えることはなく、また、真空中でも円滑に動作することは既に実証しているが、あらゆる応用において実験および性能試験、耐久試験をへて実用化への道を指向する。超高真空環境下において安定した試料と絞りの駆動を実現し、電子顕微鏡の性能をさらに向上できる。

従来の電子顕微鏡では300mm〜1,000mmの金属ロッドの先端に試料や可動絞りを取り付け、鏡筒外から位置制御する方法であるため、高精度な機械加工を用いても遠隔操作の誤差やロッドの熱膨張と収縮による試料位置等のドリフトによる不安定要素は拭えない。通常の温度領域でも数μm以上の誤差が生じている。本事業の開発製品は駆動機構を鏡筒内に持ち込めることから、ロッドを用いないため、熱膨張と収縮の悪影響が消滅して超高分解能観察に優れている。また、鏡筒を貫通する穴を通して鏡筒外から機械的に駆動されているので、その貫通穴はグリスとOリングで真空を封じる構造をしている(図2)。即ち、真空を封じるOリングやグリス等はガスの発生と真空度の低下をもたらす要因となり、ハイドロカーボンの付着による試料汚染が発生する。さらに、繊細な動作が要求される試料と絞りの位置調整が大きな気圧差を押さえて大きな力で操作する必要がある。これらは高分解能観察を誇る新鋭機の性能に数多くの限界を与え、多くの計測器取り付けポートを必要とする次世代機器の開発が律速している。
電子顕微鏡が市販されて70年余りを経過して、電子工学と真空技術などの発展によって性能が徐々に向上してきたが限界に達している。本事業の研究開発によってブレークスルーした次世代の電子顕微鏡の製作に資することとなる。
しかし、これらを克服する手だてがこれまでなされなかったのは、電子顕微鏡内に駆動機構を持ち込むことがタブーであったことによる。特に磁場の影響が電子顕微鏡の解像度(分解能)に影響するからであった。また、電子顕微鏡の電子レンズのポールピース間隙に駆動機構を組み込めるような小型化が困難であったためである。申請する開発駆動機構は、地場産業に存在する高度な金属加工技術、表面処理技術、および関連する知識によって、電子顕微鏡の性能に影響を与えることなく、かつ、組み込み可能な超小型化を実現する。

図2. 従来機の透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡における鏡筒外からの駆動機構
図2. 従来機の透過電子顕微鏡と走査電子顕微鏡における鏡筒外からの駆動機構

高度化目標と技術的目標値における研究項目は、開発装置の構造(設計)、製作、材料の種類、硬度、磁化の強さ、金属表面処理(研磨・メッキ)、駆動の安定性、耐久性などと、各種電子顕微鏡への組み込みおよび試料等の交換メカニズムの開発と制御ソフトの開発である。また、組み込んだ電子顕微鏡における精度測定と電子顕微鏡の性能試験である。

図3 二軸駆動装置の試作品
図3 二軸駆動装置の試作品
図4 グリッドの孔の中に試料の観察位置と絞りの中心を合わせる
図4 グリッドの孔の中に試料の観察位置と絞りの中心を合わせる
図5 試料交換室の構造
図5 試料交換室の構造
  1. 駆動機構の設計・製作
    開発装置の構造(設計)では、より安定した駆動を得るために、アクチュエータを各軸に二個使用した二軸駆動方式とし(図3)、フレームの金属材料にはチタンを加工する。チタンの精密加工は困難を伴うが、高度な日本の加工技術を持って、電子顕微鏡に組み込める部品を製作する。
  2. 駆動制度の計測
    駆動機構の駆動精度は500 nm以下、再現性も同様の値を目標とする(図4)。
  3. 耐久性と円滑性の追求
    再現性と耐久性には金属表面の処理に影響されるので、研磨とメッキの地場産業の専門家に技術指導および加工依頼を想定している。現在試作品で50万回以上の安定した動作を確認しているが、これは5000回の電子顕微鏡利用回数に匹敵し、電子顕 微鏡の寿命である15年をカバーできる回数である。
  4. 電子顕微鏡への組み込み
    開発装置の電子顕微鏡への組み込みでは、装着/着脱装置および制御信号の送信法が電子顕微鏡のメーカー、機種によってそれぞれ設計・製作する。さらに試料等の交換法は必要最小の予備排気機能を備えた試料図5 試料交換室の構造 図3 二軸駆動装置の試作品 図4 グリッドの孔の中に試料の観察位置と絞りの中心を合わせる 交換室を製作する。これらは電子顕微鏡メーカーとの共同作業を想定している(図5)。
  5. 駆動ソフトウエアの開発
    駆動機構への駆動信号はコンピュータからのパルスを送信して制御するが、コントロールはキーボード、ジョイスティックなどを利用し、電子顕微鏡像を観察しながら制御できるシステムにする。

研究開発においては各項目について下記のような研究開発を実施する。

  1. 駆動機構の設計・製作
    開発装置の構造(設計)では、アクチュエータの軸に偏心が起こらない軸受けを考案し、安定した駆動を得る。アクチュエータは各々二個使用して、平行な二軸上にX部材、X部材の中に、さらに同構造のY軸部材を収納する(図3)。さらに軸数を増やして高次元の駆動機構にするための構造を考案する。同時に、更に集積度を増して駆動ユニットを小型化し、応用範囲の拡大を可能とする。フレームの金属材料およびアクチュエータの軸の表面処理を、精密研磨、メッキによって実用化を諮る。申請者の株式会社サンエンテックはチタン等の硬金属の精密加工技術をもって電子顕微鏡に組み込める精度の部品を製作する。また専門外技術が必要な場合は、申請者が日常的に支持し合う異業種の中小の企業に技術依頼をする。
  2. 駆動制度の計測
    開発機器の製作精度と駆動状態のひずみの計測には、三次元計測器の常設が必須であり、開発機器の性能と安定性、耐久性の測定にも用いる。また、電子顕微鏡の観察画像で試料移動や絞りの位置調整が、低倍率から高倍率にいたく倍率に準拠して正確に制御できていることを確認する。駆動機構の駆動精度は高倍率で500 nm以下、再現性も同様の値を目標とする(図4)。
  3. 耐久性と円滑性の追求
    再現性と耐久性には金属表面の処理に影響されるので、研磨とメッキの地場産業の専門家に技術指導および加工依頼を想定している。現在試作品で50万回以上の安定した動作を確認しているが、これは5000回の電子顕微鏡利用回数に匹敵し、電子顕微鏡の寿命である15年をカバーできる回数である。安定した駆動はアクチュエータのトルクに依存するところが大きいが、ユニットのサイズに制限があるので、小型でパワーのあるアクチュエータを採用する必要がある。既製品で対応できない場合は、オリジナル品の製作をメーカーに依頼する。
  4. 電子顕微鏡への組み込み
    開発装置の電子顕微鏡への組み込みでは、装着/着脱装置および制御信号の送信法が電子顕微鏡のメーカー、機種によってそれぞれ設計・製作する。試料ホルダを着脱する場合はコネクタの設計製作を伴い、試料等の交換法は必要最小の予備排気機能を備えた試料交換室を製作する。これらは電子顕微鏡メーカーとの共同作業を想定している(図5)。電子顕微鏡の観察画像においては、熱膨張/収縮による試料ドリフトが軽減(ゼロに近くなる)されているか、真空度が向上し、試料汚染が減少しているかなどを検査し従来機と比較検討する。
  5. 駆動ソフトウエアの開発
    駆動機構への駆動信号は、アクチュエータにパルスを送信する回路を製作する。ただし、パルスの数(1〜)をコンピュータから制御して送信するが、観察者のコントロールはコンピュータのキーボードあるいはジョイスティックなどを利用し、電子顕微鏡像を観察しながら制御できるシステムとする。試料および絞りの動きは、長年電子顕微鏡利用者が慣れ親しんでいる従来の電子顕微鏡観察時の動作感覚を引き継ぎ、また、各人に合った操作感覚に合わせることのできる機能を備える。

【研究開発成果の効果】

開発する電子顕微鏡用の駆動機構を透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、電子顕微鏡内実験装置へ応用することによって、従来の電子顕微鏡が直面している部材の熱膨張、高真空の限界などによる高性能化の限界を克服することができる。
これは、電子顕微鏡の外観も一新するとともに、電子顕微鏡がかつての日本のお家芸であった時代を取り戻す効果を生み、国益にも大きく貢献する波及効果が期待できる。
【新たな事業展開の可能性】電子顕微鏡を生産する大手会社は日本では2社程度、世界でも数社程度である。これらの、とりわけ日本の会社と、開発ユニットの組み込み契約を交わし、それぞれの用途のユニットを供給する体制を構築する。ユニットを組み込んだ新しい電子顕微鏡は次世代機として、既設の電子顕微鏡には後付けによるオプションとして供給する。
【その他】海外大手の電子顕微鏡メーカーにも追随して開発ユニットの取り込んだ機器の生産に協力を依頼する。

専門用語解説

  • 絞り:電子顕微鏡の電子線をカットする20~300μmφの孔の開いたモリブデン製の金属薄膜
  • 透過電子顕微鏡:光学顕微鏡の光を電子に変えた顕微鏡。TEMと略す。
  • 解像度:顕微鏡の分解能
  • 高真空:電子顕微鏡では10-1~10-13Pの真空を用いる。
  • 可動絞り:電子顕微鏡に用いる絞りでは、使用時に絞り孔径の選択および芯出しができる絞りで、コンデンサ可動絞り、対物可動絞り、制限視野絞りなどがある。
  • 鏡筒:電子顕微鏡の真空を保持して電子線を通す躯体。
  • ピエゾ素子アクチュエータ:圧電素子にパルス信号を送信することによって生じる振動を用いて駆動するモータ。
  • 磁界レンズ:コイルに電流を流して生じる磁界を利用して電子線を収斂する電子レンズ。
  • ポールピース:磁界レンズのもっとも電子線の集まるところを作るための鉄製のパイプ。
  • 試料室:電子顕微鏡では試料を保持する空間。
  • 走査電子顕微鏡:実体顕微鏡(虫眼鏡)のように標本の表面形態を拡大する電子顕微鏡。
  • パルス電圧:矩形の直流電圧
  • ドリフト:電子顕微鏡では試料がクーロン力、部材の熱膨張、機械的制御不良などで生じる不本意な試料移動
  • Oリング:真空を遮るゴムの輪。
  • 真空グリス:真空を遮り、蒸発の少ないグリス。
  • ハイドロカーボン:炭素と水素から成る有機化合物。
  • 高分解能観察:分解能が10nm~0.3nmで、数万倍から数十万倍で観察するレベルを言う。
  • 分解能:電子顕微鏡では2点間識別最少距離をいう。
  • 予備排気機能:電子顕微鏡で鏡体の真空を破ることなく小さな部屋を介して試料の出し入れができる機能。